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珈琲の匂いだ。
碧は目を開けた。
淡いグレーに塗られた壁。
そこにモノクロの風景写真が並んでいる。
そうだった。
碧はもそもそと起き上がると、床に散らばっている服を拾いながら身につけていく。
シャワーを浴びたいと思ったが、借りるのがはばかれる。
すぐに帰ろう。
かつて東京で宗雅がそうだったように。
遠慮がちに寝室のドアを開けると、リビングに宗雅の姿があった。
建築家がデザインした有名な黒い革張りのチェアに腰掛けて、片手にマグカップ、片手に英字新聞だ。
どこぞの映画の1シーンかと思う。
思わず見ほれて固まっていると、目を上げた宗雅と視線が合った。

