夜のひそやかな楽しみ (Spin off 追加しました)



    *


珈琲の匂いだ。


碧は目を開けた。


淡いグレーに塗られた壁。


そこにモノクロの風景写真が並んでいる。


そうだった。


碧はもそもそと起き上がると、床に散らばっている服を拾いながら身につけていく。


シャワーを浴びたいと思ったが、借りるのがはばかれる。


すぐに帰ろう。


かつて東京で宗雅がそうだったように。


遠慮がちに寝室のドアを開けると、リビングに宗雅の姿があった。


建築家がデザインした有名な黒い革張りのチェアに腰掛けて、片手にマグカップ、片手に英字新聞だ。


どこぞの映画の1シーンかと思う。


思わず見ほれて固まっていると、目を上げた宗雅と視線が合った。