「大丈夫なわけないだろ? 無理するな」


部長らしくない言葉にびっくりして、顔をしっかりと正面に向けた。

部長も一応心配してくれているのだろうか?

相変わらず眉間に皺が寄っていて、感情が全く読めないけど。


「うん、そうだよ。無理しなくていいからね。じゃあ、今日はちょっと酔ってみる? 俺は嫌なことを忘れたい時はいつも飲むんだ」


「忘れたいときは飲む? なるほど……」


「拓人、お前と一緒にするなよ。野々宮もなるほどじゃないからな。忘れる方法はそれだけじゃない」


私は部長の前にあるワイングラスに釘付けになった。部長の忠告は耳に入らない。

飲めば忘れられる。この失恋した悲しい気持ちを忘れられる……。


「あ、待て! おい! ……あーあ、何でそんな飲み方するんだよ」


「本当に飲んじゃったんだ。野々宮さん、意外と無謀なことをするんだね」


部長のグラスを素早く取って、赤い液体を一気に流し込んだ。喉が焼けるように熱くなったけど、なんだか体がふわふわして気持ちがいい。

部長はまた眉間に皺を寄せていて、大石さんは頭をかいて苦笑いしていた。