中を確認しなくても崩れてしまっているのは安易に想像できた。

素早くケーキの箱を拾い上げた柴田涼は、私の腕を掴んでで、ケーキ店へと急ごうとする。一方私は、いきなり腕を掴まれたことに驚いて動けなくなっていた。

とにかくケーキ店へと急ぎたいみたいだけど……

私は、不機嫌な顔をしている女を気にした。ぶつかった張本人だと言うのに、謝るどころか頬を膨らませている。

「ちょっとー、涼。ぶつかったのはお互いさまなんだから、弁償する必要はないでしょ? それより早く行こうよ。映画の時間、もうすぐよ」


「は? 映画よりこっちのほうが大事だろ? お前ぶつかっておいて謝りもしないのかよ?」


柴田涼は女を睨んだ。女の顔が一瞬歪む。


「あ、謝るわよ。申し訳ありませんでしたっ!…ほら、言ったわよ。行こうよ」


それで謝ったというの? それが謝る人の態度なの?

予約限定のバースデーケーキなのに、ひどい。

女は再び柴田涼に腕を絡ませて、進もうとする。しかし、柴田涼は動かなかった。彼の腕はまだ私を掴んだままだったのである。