村田さんが立っている場所だけ台風の大雨があったような有様だ。

これ、乾かなかったら明日の部活に支障が出るぞ。

そう思いながら村田さんを見ると、その両目は俺を捕らえていた。

その両目で見られると悪い事をしてしまった気分になり、俺はぽりぽりと頭をかいた。

「虹、十分見ただろ? そろそろ帰らないか」

このまま村田さんを1人残していたらまた大量の水をまきかかねないと思い、俺はそう誘った。

「あたしが、平野雄和と一緒に帰る?」

村田さんは不思議そうに首を傾げてそう聞いて来た。

同級生にフルネームで呼ばれるとどこかくすぐったい。

だけど村田さんにいきなりニックネームで呼ばれるよりは、まだマシだった。

「まぁ……そうだけど……」

俺はまたぽりぽりと頭をかく。

他の同級生たちと何かが違う村田さんと会話をしていると、自分のペースを乱されてしまう。

「別に、嫌じゃないから」

村田さんはそう返事をすると、太いホースを細い腕にクルクルと巻きつけて片づけを始めた。

これは、俺と一緒に帰るという意思表示ととらえて大丈夫なのだろうか?


『いいよ』とか『わかった』とか。

そういうありふれた返事がなかったことで、俺は村田さんがホースを片付ける様子をぼーっと突っ立って見ていることしかできなかった。

ホースを片づけ終えた村田さんが少し息を切らして俺の隣へ走ってきた時ようやく、あぁ、一緒に帰るんだな。

と、理解できた。

それと同時に重たいホースを小柄な村田さん1人に片付けさせたことを申し訳ないと感じた。