村田さんを取るつもりなんてないし、できれば野間とうまく行ってほしいと思っている。

そんな俺はなんとか村田さんから視線を外した。

しかし予想外の展開に心臓はうるさくて、村田さんと何を話していたのかよく覚えていない。

気が付けば乗車したバスは目的地に到着していた。

バスを下りて遊園地に吸い込まれていく沢山の人を見ると、自然と心が躍った。

「行こう」

村田さんを促して真っ直ぐゲートへ進んでいく。

その時だった。

歩いている俺の手に誰かの手が触れた。

「え……」

驚いて振り向くと、村田さんがムスッとした顔を浮かべて俺を見ていた。

「な、なに?」

不機嫌そうな村田さんよりも、村田さんに手を握られた事に動揺してしまう。

「迷子になる」

「あ、ごめん」

俺は慌てて村田さんの手を握り返した。

子供のように小さくて柔らかな手。

村田さんの身長では人ごみに紛れたらすぐに見失ってしまいそうだ。

手を繋ぐという方法は一番いいと思う。

ただ……俺が緊張で倒れそうだけどな。

俺はそう思い、変な汗をぬぐいながらゲートへと向かったのだった。