本当は今ここに立って村田さんを遊園地に誘うのは隣のクラスの野間マサノのはずだった。

そのために俺は今日の昼休みに、寄って来る女子生徒たちを振り払うようにして野間に話しかけたんだ。

野間はいつものように本田と一緒に将棋雑誌を眺めていて、俺に声をかけられたことにも気が付いていなかった。

きっと、学校内で自分に声をかける人間は本田以外にいるはずがないと思っていたからだろう。

なぜそんな事が言い切れるかと言えば、何度目かの呼びかけにようやく振り向いた野間があからさまに驚いた顔を浮かべていたからだ。

「なぁ、野間。お前遊園地とか興味ないか?」

あまり会話をしたことのない隣のクラスの俺に突然声をかけられて、野間は一瞬金魚のように口をパクパクさせた。

返事をしようとしたけれど、驚きすぎて声が出ない。

そんな様子だ。

「えっと……遊園地?」

野間は消え入りそうな声でそう聞き返してきた。

それだけでもすでにイライラする。

教室の外では俺のファンだと名乗っている女子たちが野間に対して恨めしそうな視線を向けているし、話はできるだけスムーズに終らせたかった。

「そう。女子と2人で遊園地」

そう言うと、野間はポカンと口を開け次第に頬を真っ赤に染めた。

小学生じゃあるまいし、なんだその反応は。

「じょ、女子って?」

「村田桃葉」

「村田さん……?」