「──それはそれは悪うございました。心の汚い奴で」

びくっと肩が跳ね上がった。

その声があまりにも、唸るように低く、かつ、私を最大限に見下したようなものだったからだ。思わずばっと自分の顔の前を両手でかばう様にして、交差させる。


「っ!? こ、心を読んだ!?」

「普通に全部喋ってましたけど」

「おうおう。私の口ってば、お転婆さんだこと。きゃッ」

「は?」

「まがおこわい」

「先輩のその弛んだ笑みのほうが怖いです」

「なんだよ! さすがの先輩ももう限界だよ! 泣くぞオラァ!」

「そんな顔を見たら世の男どもは、鳥肌を立ててしまいそうなんで、俺だけにしておいてください」

「もう一生誰にもしねえよ」

「先輩にしては賢明です」


褒められたけど、褒められてなかった。

後輩は、ふと腕時計に視線を落とした後、開いていた文庫本を閉じて鞄にしまい、立ち上がる。