「なんだって?」

 気まずそうな寧が視線を逸らしていった。

 「今日は無理だって」

 「はい?それであなた、折れて切ったわけ?なんの為に私があなたから携帯奪って電話したと思ってるの?」

 視線を逸らしたままごめんと謝った寧。

 「…さっきも言ったと思うけど、今翆は弱ってるから。あまり刺激してほしくないんだ」

 好きな人を守りたいってこと?

 逸らしていた視線を私に向け、寧が腕時計を見た。

 「もう二時過ぎてる。明日も仕事だよね?遅くまでごめん」

 会計の伝票をもって逃げるように立った寧を睨み、呼び止めた。

 「待ちなさいよ。なんでここに小野田翠を呼ばせないのよ」

 時間なんて関係ない、自分から呼び出しといて勝手を言う寧は、静かに振り返った。

 「…ゆき。僕の気持ちはバレバレみたいだからわかると思うけど…僕は翠が好きだ。弱ってる翠にゆきが何を言うつもりかは知らないけど、傷つけられるかもしれない場所に好きな人を呼ぶなんてこと、僕はしたくない。それに…」

 振り返った寧は私を睨んでいた。

 「なんでかわからないけど、ゆきは翠をフルネームで呼ぶよね。翠だけを。気に食わないならそれでもいいけど、僕は翠を好きだから、せめて苗字か名前を呼び捨てか君とかさん付けにしてくれないかな。呼び方なんて何でもいいんだけど、僕はいい気がしないから」