「…バレてたんだ」

 観念した寧の困ったような照れ笑い。

 「…弱い人。小野田翠は脆い。好きになったって苦しむばかりじゃない」

 苦しい時には離れて行くくせに、それでも立ち上がれない嫌な人。

 寧は笑う。

 困ったように笑いながら、私を見ずにいう。

 「翠はね、困ったら僕を突き放すんだけど、本当にどうしようもなくなったら時々…僕の肩にもたれて言うんだ」

 視線を下に落とし、自分をあざ笑うように、疲れ切ったように、それでも嬉しそうに寧が笑った。

 「…おまえの声が聴きたいって」

 どうしようもない惚気話だった。

 だけどそれを惚気話で済ませられないのは、寧の目を見てしまったから。

 そんなどん底に落ちた人間にすがられて、寧が何かできるはずもない。

 ただただ好きな人を助けられない自分の無力さを呪い、それでも縋られた手を離せない弱さと戦い、笑うしかできないんだ、きっと。

 口元の笑みとは裏腹に、目が苦しむように閉じられた。

 助けになっていると主張する喜びの混じった声とは違い、瞳はただただ苦しそうで。

 惚気に近いどんな話も、好きな理由も、好きなところも、全ては言い訳のようで。

 その目をみてしまっては、ただ抜け出せない闇に引きずり込まれて足掻いているだけにしか見えない。