「小林涼です。
みんなと仲良くやってかれっかなぁ?
3年間よろしく!」
どこからか「お前は心配ないから」という野次が飛んでいた。
人の輪の中の中心に自然にいそうな、そんな人。
「鈴木航太っていいまーす。
涼程じゃないけど、割と背高くてー
…何言ってんだ、俺。
まぁ、いいや、よろしくねー」
そんな適当な自己紹介はありなものかと考える暇もなく私の番である。
当然のことながら私に視線が注がれる。
私は静かに席を立ち、黒板へ向かう。
そして、目の前にある長めのチョークを取り、綺麗な黒板に書かれた先生の名前の隣に文字を書いていく。
〈鈴原桃です。
私は声が出ません。ですが、筆談とかして、みんなと話していきたいです。
よろしくお願いします。〉
壇上で一礼をし、席に戻る。
その間にも注がれた視線が少しだけ痛かった。
そこに先生が口を開いた。
「あなたが鈴原さんね。」
先生はさっきと同じ笑顔で静かに微笑んだ。
そうこうしているうちに、長く感じられた自己紹介タイムは終わり、今日は、もうこのまま解散となった。
周りはうるさいくらいに人の笑いや話し声が飛び交い、私の上や周りを行き来した。
「鈴原さん…」
突然後ろからかけられた声に動揺する。
そして、その声の元に振り返ると、
「自己紹介したけど、曽田優華だよ。
あたしのことはゆうって呼んで!
鈴原さんみたいな人と関わったこととかないから、失礼な事とか言ったらごめんね、困ったこととかあれば聞いて!」
その言葉に〈ありがとう〉と返す。
メモ帳を開いて、その一言を書いてみせるまで、彼女は静かに待っていてくれた。
そして、その一言をみると、優華は
「LINE教えて!」
と笑いかけた。
すぐに携帯を開いてLINEの読み取りを画面を見せて促す。
そして、優華は画面を離すと
「夜送るね!
じゃあ、また明日!バイバイ!」
そう言って、手を振って先に教室から出ていった。
