この日は五月雨(さみだれって古文の授業でよく習ったなぁ)の降り続けてやまない日だった。

いつもの日常。
平坦な日常。
午後3時頃から出勤のしたくを始める。
この手の商売において、したくは要するに化粧とヘアセットである。
『メンドクセー・・・』
と思いながら、普段より濃いメイクをする。
アイラインを太めにひき、私の細めの目を大きくパッチリに見せようとする。
その上にどっしりと最大級のつけまつげをつける。
手は商売道具なので、指にマニキュアやスカルプはしない。
男性器をさわるためには、むしろ短い爪でないと!

最後にリップグロスを厚めにつけて、さてっしたくオッケー!

ゴトンゴトンと約20分電車に揺られ、渋谷駅に着いた。
ただいま午後5時。
ギャル、サラリーマン、ホームレス・・・・この雑多な雑踏を通り抜けて、私の職場であるお店に着いた。
お店は、看板を出していない。
一見普通のマンションの1室にある。ちなみに3階。
なんでだろ?ケーサツに見つかるとやばいのかなぁ。許可をとってないとか?

なんて考えながら・・・
ドアを開けたら、その世界が開く。
アジアンな雰囲気で、ヒーリング曲がかかっている。
一見、女性用のエステサロンみたいだ。

部屋は6室ある。
つまりマックス6人の女の子が6人の客をサービスできるということだ。

私は遅番だったので、早番の女の子が場合によってはまだ働いている。
入れ替わりの時間を待つ。
部屋の中でエッチなことをしているお客さんがいる。
だから、
「おはようございまーす」
と小声でチーフに挨拶をしなければいけない。

そしてそれから私は今日の持ち場の空き部屋に案内される。
お客さんが来るまでは、いわゆる待機ってやつだ。
ミニスカートとキャミソール(一応これがユニフォーム)に着がえ、私はこの6畳1室のなかで雑誌をぱらぱらめくりながら、客が来るのを待っていた。