「う……嘘だぁ。お姉ちゃん」
信じられないと呟く小夢ちゃん。
「ゆ、夢乃……?」
ただ困惑する林檎さん。
僕は、警官の手のひらを噛む。
「痛っ!」
警官が放した一瞬でまた叫ぶ。
「夢乃ちゃん!これが、これが!海だよ!」
全力の声だ。もう喉が枯れる。
「この野郎!痛いんだよ!」
再び警官に口を抑えられる。
夢乃ちゃんの顔はずっと陸の方を見ていたが僕の言葉で逆側を初めて見た。
夢乃ちゃんはジッと見ていた。本当にしばらく全然動かないで、見ていた。
そして、
「海だぁ……!」
夢乃ちゃんは泣きながら言った。
そのまま林檎さんに、抱きつく。
「お母さん!海だよ!これが、海だよ!」
「う……。うん!そうだね。海だよ!」
林檎さんも感動で目を潤ませる。
「ほら!小夢も見てよ!海だよ?」
「分かってるよ、お姉ちゃん。海だよね!」
小夢ちゃんも両手で顔を隠しながら言う。
「高姫くーんー!ありがとー!」
夢乃ちゃんは僕の方を向き直して言ってくれた。
「うぅ……!ど、どういたしまして!」
僕は泣きじゃくりながら警官の手のひらを噛んで言った。
でも、今度は警官は何も言わなかったし口を抑える手もゆるい気がした……。