ちらりと助手席の方に目を遣ると、同意される事を期待していたのだろう、思いのほか冷たい私の声に、瑛梨奈が戸惑ったような顔をしたのが見えた。



しかし私は、娘に対する反論をやめる事が出来なかった。


「全然かっこよくも、すごくも無いよ。


大体その本だって、いじめに遭った事の恨み節でしょ。

そういうのを『負け犬の遠吠え』って言うの」


「何、怒ってるの……?」


「怒ってなんかないよ。


いじめなんてのは、まともに友達付き合いも出来ない、いじめられる方が悪いの。

いじめられる子なんて普通じゃないんだよ」


「……そっか」



瑛梨奈は神妙にうなずくと読みかけの本を閉じ、それ以上、何も言わなかった。


私の理解を得る事を諦めた様子であった。



私だって、母娘で価値観を共有し、同じ趣味を持てたら、どんなに嬉しかっただろう。



もちろん娘が読書家に育つ事には大賛成。


でも幽霊が書いた本だけは、読んでほしくない

そんなものにだけは、共感してほしくないのだ。



――ごめんね、瑛梨奈。


悪いけどママ、そこだけは譲れないの。