帰宅すると、瑛梨奈はもう部屋に引き上げていた。



化粧を落とし、冷えた体を風呂でさっと温める。



湯に浸かっていても、入浴を終えてリビングで過ごしていても、先程の光景ばかりが目に浮かんだ。


夫にそっくりの後ろ姿。


女の、夜の闇よりもなお黒々とした長い髪――。



テレビを付ける気にもなれず、眠る事も出来ず

ひっそりと静まり返った室内に、ただ重苦しい疑念ばかりが満ちていった。



午後11時を過ぎてから、夫が帰宅した。



疲れきった様子でジャケットを脱ぎ、ソファに体を深く沈める。


特にいつもと変わった所は無い。



「優斗くん、今日は残業だったんだよね?」


さりげない風を装って、そう尋ねてみた。



「あぁ」


しゃべるのも億劫、といった感じで、夫はうなずいた。



「そう。そうだよね」



やはり、変わった所は無い。