車窓を流れて行く夜の繁華街をぼんやりと眺めながら、楽しかったひとときを反芻する。



料理がどれも美味しかった。



主婦仲間の1人がきれいなローズ色のネイルをしていた。


私も何か、新しい色のコスメに挑戦してみようか。



また別の友人は、自分の子供に英会話を習わせ始めたと言っていた。


瑛梨奈にも何か、将来のためになる特技を身に付けさせるべきか。


習い事が増えれば、あの幽霊の本も読まなくなるかもしれないし


――と。



雑踏の中に、見慣れた後ろ姿があった。


黒い短髪、すっすと姿勢良く歩く背格好

遠目に見ても仕立ての良い黒いジャケットは、私がデパートで選んであげたもの――。



見れば見るほど、うちの夫によく似ている。


タクシーが赤信号で停まったのを幸いに、私は窓ガラスに顔を寄せ、男の姿に目を凝らした。