ロイヤルミルクティーをトレーに載せ、甘く華やかな香りを曳いて

「Erina's room」というカラフルなミニプレートが貼られたドアをノックする。


「はーい」


中へ入ると、瑛梨奈は机に向かって熱心に読書をしているところだった。


教科書や問題集は、脇に片付けられている。



「何読んでるの?」


机の上にマグカップを置いて尋ねると、瑛梨奈は本を閉じて、表紙をこちらに向けて見せた。


白い表紙を囲む、細く赤い罫線。


中央に黒い字で、タイトルと著者名。


「……どうしたの、それ」


「買ったの。面白いよ」


手にしたマグカップをふうふう吹きながら、瑛梨奈は言った。



あの日テレビで見た、幽霊の最後のエッセイ「私の勝ち」。


「ママも読む?あとで貸したげよっか」


「えっ?


……いや、だってそれ、この間自殺した人の本じゃない。

なんか気持ち悪い」


「えぇー。そんな事無いよ。


……じゃあさ、あれは?」

と言って、瑛梨奈は机の隣にある本棚の一角を指した。


「おばあちゃんが買ってくれた『芥川龍之介』。

あの人だって自殺したんでしょ?」


「芥川龍之介はちゃんとした作家だもの、全然……」

そう言いかけて、私は再びぎょっとした。