バレンタイン事件…?

一生懸命押してくる睦月君には、
悪いけどその話を立ち聞きしてしまう。

ダメだと分かっているのに…身体が動かない。

「そりゃあ、忘れろと言う方が無理じゃねぇ?
沙織ちゃん。藤崎が他の女性から貰った
大量のチョコを1人で全部完食しちゃうんだぜ?
しかも、誤って自分が渡すはずだったチョコまで
食べちゃって…もう大爆笑でさ」

浜野さんは、思い出し笑った。

「あれは…沙織のヤキモチでした行動だ。
まぁ、本気で全部食べきるとは…思わなかったが」

「でもさ、明らかに途中で
藤崎の事を忘れてチョコに夢中になってたぜ。
『このチョコ美味しい~』とか言ってたし。
沙織ちゃんって見た目は、上品なお嬢様っぽいけど
ちょっと抜けていたよな。
また、そこが可愛らしかったけど」

「……まぁな。アイツの大食と行動には、
よく驚かされたもんだ」

そう言った先生の声は、何だか優しい声だった。

とても可愛らしい奥さんだったのだろう。

「…………。」

2人の会話を聞いていても分かる。
仲のいい夫婦だったのだろうと…それもそうよね。
先生と奥さんだもの。

泣きたい気持ちを我慢しながら下を向くと

えっ……!?

私を押していたはずの睦月君が
涙をポロポロと溢れて泣いていた。

「ちょっ睦月君!?」

私は、驚いて声を出してしまう。
すると先生と浜野さんが声に気づかれてしまった。

あ、気づかれちゃった!?

「あ、やべぇー聞かれちゃった!?」

「お前らそこで何をしているんだ!?」

リビングから出てくる。

私は、動揺しながらも泣いている
睦月君を慌てて抱き上げた。

「あ、あの…盗み聞きするつもりは
なかったのですが…」