なんせこっちも相手の部屋の全体が見えるということは、彼からも見えるのだ。だから下着姿でウロウロしたり、すごい寝癖でだらけたりはしなくなった。今までは平気でしていた、靴下が左右違うとか、爆発したような寝癖だとか。服装や趣味なんかは変えなかったけど、いつ見られても大丈夫な状態にはしていた。
必然的に部屋も片付けられていたので母さんは機嫌がよくなった。
この子に一人部屋を与えて正解だったわ、そう父さんと話しているのを聞いてしまった。ちゃんと片付けもするようになったのよ。あの子、整理が不得意だったのに。やっぱり自分のエリア、というのを持たせるのがいいのね、って。
あたしはそれを聞きながら、冷蔵庫をあけてちょっと笑っていた。
違うの母さん。実は、隣の子のことを好きになったみたいなのよ、あたし。って心の中で思って。だからこれは、恋の魔法ってわけ。
風が気持ちいい夕方で、普段通りの退屈な水曜日の夜だった。
あたしも彼も、電話中は窓をしめる。だけどカーテンはしめない。そして、会話が終わったら窓を開ける。あたしには彼氏はいないけれど、隣に住む彼には彼女がいるのだった。同じ学校の、人気者の彼女らしい。バスケットボール部のエースで生徒会のメンバーでもあるとか。だから彼の方が窓を閉めての「電話中」は多かった。
だけど今日、珍しく彼は窓を開けたままで電話をしていたのだ。声は低く抑え目にしていたのであたしには会話は殆ど聞こえなかったけど。



