あたしの部屋にある大きな窓は、隣の家の、その男の子の部屋の窓と隣接している。
お互いが窓をあければ手が届く距離。話だって勿論出来るし、同じ学校だったらノートの貸し借りだって玄関を使わなくても簡単に出来る距離。
残念なことに彼はあたしなんかよりはるかに偏差値のいい学校に通っているからそんなことは出来っこないし、大体年上でもある。
それにそもそも赤の他人なわけだった。
だから引っ越して最初の方は、窓辺にいればバッチリ目があってしまってお互いに気まずく、気を使って窓もカーテンも閉めていたのだけれど、夏を過ぎるころからあまり目隠しをしなくなっていた。
だって唯一の窓がそれなので、カーテンも窓も閉めていると換気も出来ない。爽やかな初夏の風を部屋へ入れたくて開けていたら、その内部屋の中を覗かれる心配など気にならなくなった。それは相手も同じだったらしい。春先までは全く接触がなかったのに、あちらも窓を開け始めたから声や物音が聞こえるようになったのだ。
で、挨拶をするようになった。
「おはよう」とか、学校から戻ってきたほうが部屋の窓をあけて相手に「お疲れ」っていうとか。
だから、世間話もするようになった。
暇な夕方や夜に窓辺でちょこっとした話なんかを。今日の晩ご飯やクラブの話。お互いの学校の有名人の話とか、そういうものを。
それからはあたしは、ちょっとづつお洒落になっていった。



