だって仕方がない。彼の前だとツンツンと顎を上げて通り過ぎてしまうのだから。どうしても笑うことなんて出来なくて、私はじろりと彼を睨んでしまうのだ。

 目があうと。

 もうダメだって、息が苦しくなる。

 本当はちゃんと喋って、私の存在を覚えて欲しかったけれど。

 同じクラスにいる女の子のことを覚えて欲しかったのだけれど。

 でも私だから、それは無理なのだ。

 盛大なため息をついて、私はテーブルの上でシャーペンを転がす。人差し指で軽く押すと、それは簡単に転がっていってしまう。


 こんな風に──────────自分の感情の処理も簡単だったら・・・いいのに。



「ほら、これ、お前のだろ?」

 振り返ると真顔で彼が立っている。

「・・あ、りがとう・・・」

 私はぼそぼそと呟いて、彼が差し出すシャープペンシルを受け取る。少しだけ指を伸ばして彼の指に触れられないかと企んでみるけれど、いつでもすっと上手に彼の指は遠ざかってしまうのだ。

 また、今回も。

「間宮ってさ」

 いつもは手渡すとすぐに背中をむけてしまう彼が、さらっと言った。

「ほんとよく、物を落とすよな」

 それから踵を返して、待っている友達の所へと向かう。

 私は手の平にいつものシャーペンを握り締めて、ぼうっと突っ立っていた。

 ・・・うわ、私の名前、知ってたんだ。