「なっ!?」

「よぉ、サヤ」


同じ制服に身を包んだ美少女が私の目の前に現れ、呑気に挨拶なんかしてきた

それは間違いなく知り合いである

艶のある長い黒髪も切れ長の瞳もどこか冷めたような声も全部見覚えがある

当てはまる人物は一人だけ中学でずっと私に世話を焼いてくれていた友達である、斎藤もか、だった

クラスが同じになったことは無いが同じ美術部に所属していて、部長だった


「久しぶり」


もかはそうやって笑うと私の隣の席にずけずけと入り込んで座った

まだ状況がいまいち把握できないで私はおどおどしているし、じろじろと本人を何度も見直す

なんでなんで?なんでモカがいるの?

モカとは卒業式の日に感動の別れをしたはずなのに

ていうか恥ずかしい、なんか恥ずかしい!

誰もいないって思ってたからめっちゃ張り切った格好と髪型なんどけど

それなりに自分のかわいいをベストで出してきたつもりなんだけどモカが隣じゃ私が浮くではないか


「なんでモカいるの?」


そう言いながらわざとらしく拗ねて窓の方を見る


「ちょっ、冷たいなぁ」


モカはふーん、と言って椅子にふんぞり返ったように座った

別にモカに会いたくなかったとか一緒じゃ嫌だとかそういうことではないが

いじめを受けていたことモカ知らないから、なんか聞かれたら嫌だなとか思ったりして

あれは裏で行われていたことだからあいつらしか知らない

モカは私と一緒にいてくれることが多かったけど部活を引退してからは放課後まで一緒にいるということはあまりなかった

家も違う方向で、それは他の友達も同様だったから
だから誰も私が男子たちにいじめられていたことなど知らないのだ

でも私も別にそれで構わなかった

変に気を使われる方が辛いし、それにいじめを受けていた頃特別、死にたいとか思ったことはなかった

それもちゃんと仲のいい信頼できる友達がいたからだ

モカみたいなね

モカは結構クラスでも目立つ存在だっただろう

まわりが一目置くような美少女だったし、仕切ることもうまかった

愛想もそれなりによくて

そんな私とモカはなぜかずっと仲がいい
小学校からの仲だ

特別話が合うとかそういうんじゃないんだけど3年間ずっと部活は一緒だったし、それにモカもあまり男子と話すことをしていなかったから

男子と話すことが苦手というわけではないらしいが苦手というか嫌いらしい

ただの男嫌いだそうだ

モカに話しかけてくる男子たちも多かったがモカはあまりそんな男子に構うことがなかった

だから女子に嫌われるということもなかったし、皆のお姉さん的な存在だった

それが私もありがたかった

だから私もモカと一緒にいて嫌だと思ったことはないし、それなりに楽しく話していた

中学校は坂に囲まれる場所に建っていた

モカの家は私とは逆方向の坂を下った先にある

そこからだと私よりも遠いところからのスタートになって早く家を出なくてはならないはずだ


「モカ、私と同じ高校だよね…?」


モカの方に向き直ってモカの制服と私の制服を交互に見る、それは間違いなく同じ制服だった

リボンもスカートもブレザーも全部同じでしかも私より全然似合ってる


「ん?そうよ」

「そうよ、って……なんで?だってモカんちから遠いじゃん!」


さも、あたりまえのように言ってくるモカ、謎だ

私だったら高校デビューでもなかったらこんな通うのに面倒な高校に行きたいと思わない

モカは「んー」といいながら手を顎にそえながら考える素振りをする

いや、もう考えることじゃないでしょ、そこは

相変わらずよく分からない子だと改めて思う、思えばモカとは結構な時間一緒にいるのに詳しいことはよく知らない

ただまぁ、いい子なんだってことはよく知ってる、だから一緒にいたのだ


「まぁ、気にしないで
 それより、同じクラスだといいね」


そうやってまたモカは笑ってうまくはぐらかした

なんかいつもと違う気がする

モカ、気のせいかもしれないけど前より優しくなったっていうか笑顔が増えた?

そんな気がする


「そうだね」

私はそう呟いてから窓の外をまた見た

いつもと違う通学路を走るバスの中、定期的にバスが揺れてエンジンの音が響く

明るい日差しが射し込んできていつもと同じ海が輝いていた