「……親父」



座り込んでいる組長に歩み寄り、諒真さんが口を開く。



「俺は…別に、ヤクザになりたくないから跡を継ぎたくないって言ってるんじゃなくてさ……」



そこで一旦切り、部屋を見回す。


私と目が合った諒真さんは、悔しそうに唇を噛み締めた。



「……親父みたいに、人を傷つけんのを何とも思わない人間になりたくないだけなんだ」



諒真さんの言葉を聞いて、組長はフンと鼻を鳴らした。



「…はっ、何を言い出すかと思えば。
この世界にはな、私みたいな人間は腐るほどいる。今更寝言を言うな」


「親父は分かってくれてると思ってた。俺が、仲間を大切に思ってることを……」



でも、と、諒真さんは続ける。



「結局、何も理解してくれなかった。俺のことも、仲間のことも」


「『理解する』だと?お前はともかく、クズ同然のそいつらの何を理解しろと言うのだ」



言い放たれた言葉に、諒真さんの瞳が見開かれた。


そして…悲しげにうつむき、少しだけ笑った。



「……やっぱり、アンタは何も分かっちゃいないんだな…」


「分かっていないのはお前の方だ、諒真。お前をたぶらかしたクズをこの場で排除してやる」


……強気に言う組長は気付いていないと思うけれど、私は気づいた。




組長を呼ぶ諒真さんの言葉が……変わったことに。