でもあの日。

授業が意味わからなくてサボったあの日。

屋上の柵の向こうにいた彼に、あたしは一瞬にして惚れた。

世間ではこれを、一目惚れだと言う。




彼と出会って、話すようになってから、あたしは変わった。

笑顔も作るんじゃなくて、自然に出来るようになった。

色々な出来事が、心から楽しめるようになった。





眼鏡の奥に寂しげに光る、哀しき彼の瞳に。

あたしは惚れたんだと思う。

どうしてあんなに寂しげに哀しげに、
でも光っていた彼の瞳の理由が、知りたくなったんだと思う。






そして今。

あたしは彼―――桐生セイヤくんの前で、子どもみたいに泣きじゃくっていた。

そんなあたしの手を、ぎこちなく、だけど強く握ってくれるセイくん。

安心してって言われているようだった。






「……俺は正直、お前がそんな辛い思いを抱えていたなんて、気が付かなかった」





眼鏡を外した、あの哀しげな瞳が、星が所々に瞬く夜空を眺めた。

…普段敬語で話すセイくんの、砕けた話し方。

普通の男子高校生らしく話せるんだって素直に感心した。