君と2人

「薫先輩!」

「睦月。」

「遅れてごめんなさい。」

「大丈夫大丈夫。そんなに待ってないし。」


着替えを済ませた私は担任に用事があることを思い出し、職員室に寄っていた。
もっとも担任は既に帰宅していて、無駄足だったのだけれど。


「帰ろっか。」

「はい。」


* * *

「薫先輩って電車通学でしたっけ。」

「そうだよ。自転車でも通えないことはないけど‥‥ちょっと遠くて。睦月は電車だよね。」

「よく知ってますね。」

「よく話してくれるんだよ。入学前にさんざん聞いた。」


聞けば氷音が私のことをよく話していたらしい。

「だから睦月のことはよく知っている。」

「‥‥私は先輩のことを詳しく知りませんよ?」


「‥‥‥‥これから知っていけばいいよ。」


間があった。
すぐに笑顔になったが、一瞬だけ悲しそうな表情をしていた。


(私は…何かとても大切なことを忘れている?)

きっとそれは薫先輩のこと。
思えば初めから初対面な気はしていなかった。

何が私から薫先輩との記憶を奪ったのだろう。


「睦月?」

先輩に顔をのぞきこまれてのけぞる。


「大丈夫?具合でも悪いの?」

「…すみません、大丈夫です。」


考え事にふけっていたら薫先輩のことをすっかり忘れていた。


「無理しちゃだめだよ。」

「はい、ありがとうございます。」


それからはたわいない話をしながら駅まで歩いた。