「佐藤君」

「やっぱり青木だ。最初反応ないから人違いかと思った」

「間違えてたらすげー恥ずかしかったわ」と照れくさそうに笑う同じクラスの佐藤君。

バスケ部に所属してる彼は背が高く、染めてないと思う黒っぽい短い髪に目はつり目。

目の印象からか誰かが見た目は大きい猫みたいだけど話したら大型犬だと言っていた気がする。

クラスの人以外にも仲のいい人が多くて性別関係なく人気者というのは有名な話。

今だって同じクラスでも話すことはそう多くない私に声をかけてくれるからいい人だなあと思う。

佐藤君は私を見て向かい側の席を見て首を傾げてみせた。

「あれ? 西園寺と一緒じゃないのか?」

「あ、うん。今日は美姫とは違う人ときてて……」

さすがに女子に人気らしい北原君の名前を言うのはいけないような気がしてにごしてみたけど、佐藤君は「珍しいな」と言っただけでそれ以上聞いてこないことに助かったと肩の力が抜ける。

「佐藤君は甘い物が好きなんだ?」

「あー、オレはそんなに食べるほうじゃないけど、姉ちゃんに部活が早く終わったならここのケーキ買ってこいって言われてさ」

「店に入ったら女子ばっかで恥ずかしいな」と顔を少し赤くした佐藤君に私はあいまいに笑い返す。

そういえば北原君は慣れっこなのか女子だらけの中にいても恥ずかしそうにしてなかったな。

ショーケースの前にいた時を思い返していると佐藤君が「やばっ、姉ちゃんから催促の電話きてる。じゃあまた明日な!」と早口で言って急ぎ足でテーブルから離れていく。

女子の集まりの中に一人の男子が突っ込んでいくような様子が少し不思議なような可笑しいような。

「っ!?」

思わず口元をゆるませながら見えなくなっていく佐藤君を眺めていると、近くから音がして体がビクンとはねる。

「……今の誰?」

聞こえた低い声に顔を動かすとそこにいたのは北原君。

だけど少し前まで話していた北原君の声だなんて顔を見なければ私はきっとすぐに分からない。

無表情なところも席を離れる前の笑顔と差が激しくて、双子の兄弟だと言われたほうがまだ納得いくような気がした。