「おいしい……」

空いているテーブルに座った私達。

北原君からケーキを渡されて遠慮がちに口に一切れ運べば、カボチャの甘さが口の中にふわっと広がった。

「今まで食べたカボチャを使ったケーキの中で一番おいしい……!」

想像をこえた美味しさから手に持つフォークが休むことなく動く。

後一口のところで一人で食べていたわけじゃないことを思い出した私は、恐る恐る顔を皿から向かい側に座っている人の顔を見ようと上げていった。

「気に入ってもらえたみたいでよかった」

北原君は目を細めてじっと私のほうを見ていて、今のケーキを食べるところをずっと見られていたのかと思えば恥ずかしくて顔が熱を持つ。

思わず顔をテーブルに戻すと北原君がケーキを一口も食べていないことに気づく。

「北原君は食べないの?」

「青木さんが美味しそうに食べてるのを見たら何か俺も食べた気分になっちゃって」

「そうなんだ……。あ、確かにテレビを観てるとそういう気分になったりするよね!」

恥ずかしい気持ちのままとっさにそう返して最後の一切れを口の中に放りこむ。

「そうそう」と頷いた北原君がコップの水を飲みほして椅子から立ち上がった。

片手には手をつけていないケーキがのった皿を持って。

「会計と持ち帰りを頼んでくるからちょっと待ってて」

「あの、──行っちゃった……」

自分の分は払うって言いたかったのに、北原君は私が話す隙をくれないように早口で言ってテーブルから離れてしまう。

あっという間に他のお客さんに紛れてしまった。

私も水を飲みほして、テーブルの端の方にお皿とコップ二つを寄せながらいいのかなと考えてしまう。

ただ傘を一度貸しただけなのに北原君ってすごい真面目なのかな?

あ、こっちに人が近づいてくる。

北原君かと思ったけど近づいてくる人はまわりのお客さんよりけっこう背が高くてすぐに違うと分かった。

「青木ー」

だけどその人はこっちに向かって手を振りながらだんだん近づいてきて、私の名前を呼ぶ声と見えてきた姿に私も手を振り返す。