「──で、なつは結局北原くんと交換したんだ?」

「だってあんな顔されたら断れないでしょ!?」

教室にたどり着いて自分の机に荷物を置く。

それから席に着く美姫の所へ行けば彼女にニヤニヤとした笑い顔で言われて私はそう返した。

最初はもちろん断ろうとした。

だけど悲しそうな顔をされて、まるで捨てられた子犬みたいな顔にまわりから「かわいそう」と北原君を庇うような声が飛び交って。

強く断ることもしづらいし、メールアドレスなら何かあっても変えられるからいいかと渋々教えた。

「北原くんってけっこう女子から人気だしラッキーじゃん」

「別にラッキーじゃないよ……」

北原君は可愛らしい見た目と優しそうなことから下級生にも上級生にも人気があるらしい。

クラスの女子の何人かが教室に入ってからずっとこっちを見ているようで怖い。

いくら同じクラスの人でも勝手に人の連絡先は教えられない。

私は手に持っていたスマホの画面に指を滑らせ、普段使うことのないロック機能をオンにした。


***


「あれ? クラスの誰かに用事?」

北原君と連絡先を交換した日の放課後、教室を出たらドアの近くに北原君がいた。

誰かに用事かなと思って話しかける。

すると彼はぱあっと後ろに花が飛んでいそうなほどに嬉しそうな顔で「青木さんを待ってたんだ」と唇を動かした。

「えっ、私?」

どうしよう。

頼りになる美姫は家の用事があるからと帰りのホームルーム後の掃除が終わり急いで帰ってしまった。

私と北原君の組み合わせが珍しいからか、私達の近くを通り過ぎる廊下を歩いていく人の視線がチクチクと刺さる。

「やっぱり傘を借りたお礼を何かしたくて……」

「そんなの気にしないで。本当に風邪ひいたりしてな、えっ!? 北原君!?」

断ろうとしたら北原君が私の手をがしりとつかんで歩き出す。

可愛い見た目でもやっぱり男の子なんだ……ってそんなこと感心してる場合じゃない。

私からつかまれてる腕を引いて止まってもらおうとしたけど北原君が止まることはなくて。

そのまま階段を下りて生徒玄関までたどり着くと北原君はやっと足を止めて手を離してくれた。

「美味しいケーキ屋に連れて行ってあげる」

その後に満面そうな笑顔を浮かべて。