月曜日の放課後。

同じクラスの人がいなくなった教室の窓際で、私は買ったばかりの上靴に視線を落としている。

「……青木さん。それ本気で言ってるの?」

私以外でただ一人教室にいる北原君の震えた声が静かな教室に響く。

上擦ってもいるような声に私は足元を見たままで「うん」と小さく返した。

「青木さんから話があるって言うから楽しみにしてたのに、距離をおきたいなんて……」

「私の勝手でごめんなさい……っ」

両手を体の横でギュッと握り、私は勢いよく頭を下げる。

先に帰ってもらった美姫ならもっと上手に断ることができるだろうけど、私には理由を説明して謝ることしかできない。

「青木さん、頭をあげて?」

微かな足音が近づいてきて私の目の前で止まる。

北原君の優しそうな声に泣きそうになって頭を下げたまま目をギュッと閉じた。

「……俺のこと嫌い?」

「嫌いとか好きとかが理由じゃなくて──っ」

ポンポンと頭を軽く叩くようになでられる感覚に言葉がつまる。

この教室にいるのは私と北原君だけ。

男の子に頭をなでられているということに顔が熱くなっていく。

どうしよう……!

謝ることで頭がいっぱいだったのに今は頭にのせられている手に意識が集中してしまう。

異性に頭をなでられるなんてお父さんくらいしか記憶にないのに……!

少しの間なでられる感覚が続いたけれどやがてそれはなくなって、恥ずかしさが薄れると同時に気まずさを感じる。

「悪いけど、俺は嫌だから」

────え?

「一年の時から気になっててやっと知り合えたのに簡単に諦めると思う?」

え……? え……!?

低く変わった声で北原君はすらすらと私を初めて見たという話をし始め、私は頭を下げたままこの後どうしたらいいのかを考える。

まさかそんな風に返されるなんて思ってなかったから仕方ないと思う。