北原君と話すようになって何日か過ぎた頃、それは前触れなく突然だった。

登校して自分の名前が書かれている靴箱を開けた瞬間に私は見間違えたかと思う。

一度靴箱の扉を閉めて開けてみる。

だけどそれでも靴箱の中は空っぽだった。

「なつ、どうしたの?」

上靴に履き替えた美姫が横にきて、私は体を動かして靴箱の中が美姫にも見えるようにした。

「……上履きないの?」

「そうみたい」

靴箱の中を睨むように見る美姫にコクリとうなずく。

「こそこそするくらいなら直接くればいいのに。こういうのって本当に腹立つ」

低い声でそう言った美姫は少し乱暴に靴箱の戸を閉めた。

「職員室に行くよ。スリッパ借りなくちゃ。あと上履きを入れる袋ももらわないとね」

「……ありがとう」

私の片手をつかんでズンズンと廊下を歩き出したほんの少し先を歩く美姫の背中に呟くようにこぼせば、「どういたしまして」と優しい声が返ってきて私は少し泣きそうになった。

──結局上靴はその日のうちには見つからなくて、休み明けすぐの月曜日には体育がある。

見つからないことを考えて、土日で休みになる明日か明後日に指定靴を売っているお店に行くことにした。


***


「なつはさ、北原くんのことを好きになったの?」

「えっ?」

学校からの帰り道、綺麗な青空の下を歩いていると美姫がぽつりと言う。

北原君のことはよく分からないっていうのが今の気持ちだった。

ふわふわとした笑顔を浮かべる北原君と無表情で声が低い別人のような北原君。

どっちが本当の北原君なんだろう?

「恋愛の好きじゃないなら今のうちに距離をおいた方がいいと思う」

「知り合いでも?」

確かに北原君は女子にモテているみたいだけど異性の知り合いがいたらダメなのかな。

「佐藤くんみたいに色んな人と仲がいいならそれもありだけど、北原くんから積極的に話しかける女子はなつだけみたい。モテる人が一人にだけ自分から話しかける。その人のことが好きな人は面白くない……なつだってここまで言えばさすがに分かるでしょ?」

「それじゃあ上靴がなくなったのって……」

上靴を誰かに持っていかれた。

そんなこと思いたくなかったけど、美姫が言ったことが本当ならそれが理由なのかもしれない。