雨があがった次の日のこと。

いつも通り通学路を歩いて、いつも通り生徒玄関で靴を履き替えて。

友達の美姫に挨拶をしたのもいつも通り。

だけど今日は違うことが起きた。

「青木さん!」

美姫と一緒に玄関から廊下へと歩き出すと後ろから私の名前を呼ぶ声が聞こえた。

男子っぽいけど男子にしては高めの声に聞き覚えはなく、とりあえず歩くのを止めて振り返る。

すると少し離れた場所からふわふわした髪を揺らしながら隣のクラスの北原君が走ってきた。

「昨日は傘を貸してくれてありがとう」

髪と同じような焦げ茶色のパッチリとした目をふにゃりと細め、北原君は手に持っていた折り畳み傘を私の方へと腕を伸ばして近づける。

その傘は私が昨日学校帰りに北原君に貸した物で、次の日に持ってくるなんて律儀な人だなと思う。

「いつでもよかったのに」

「そんなこと出来ないよ。俺に貸してくれて青木さんは風邪ひいたりしてない?」

傘を受けとって話し返す私に笑顔から一転、眉を下げて心配そうな顔をする北原君に私は笑った。

「大丈夫! わりと家近いし、体が丈夫なことには自信あるから」

「それならよかった……」

ほっとしたように笑う北原君。

私達のまわりにいた生徒達が「可愛い」と言っているのが聞こえ、私は北原君をじっと見た。

身長は私より数cm高いくらいで男子としては低め。

ふわふわの髪にパッチリとした目。

確かにカッコいいというよりは可愛いって感じ。

傘を貸したのは偶然会ったからだし、隣のクラスだから今後会うことは今までみたいにそうないかな。

そう思いながら私は話を切り上げて待ってくれている美姫と今度こそ教室に行こうと「それじゃあ」と北原君に背中を向ける。

すると今度は近い距離でもう一度名前を呼ばれた。

「北原君?」

まだ何かあったのかなと思い振り返る私の目に映ったのは伏し目がちにしながら頬を赤くしている北原君の姿。

「──あのっ、よかったら連絡先を交換したいんだ……!」

「…………え?」