「ああ、本当に可愛いわねえ」



虫籠の中では、黒々とした毛虫たちがもぞもぞとうごめいている。


虫を触るのには抵抗がない男童たちも、さすがにその光景にはぞわぞわと背筋が寒くなった。



「今日はこんなにたくさん毛虫がいるのね。ああ、庭に出てこの目で見たいわ。ねえ、私もそっちへ行っていいでしょう?」



胡蝶が物欲しそうに、薄暗い御簾の内側から、明るい陽射しの溢れる外へと目をやる。


男童の一人が「それはおやめください!」と慌てた。



「姫さまと一緒に庭にいるところなど見とがめられたら、おれたちがえらい目にあいます。どんなに厳しく叱られることか………」



そのおびえた様子を見て、胡蝶は諦めの吐息をもらした。



「まったく、貴族の娘なんてつまらないわね」



外を見つめながら脇息にもたれ、嘆かわしい声をあげる。



「せっかくこんなにいい天気なのに、毛虫もたくさん出て来ているっていうのに、外にも出られないなんて。

ああ、私、一生こうやって御簾の内側に閉じこもって過ごさないといけないのかしら?」



どんよりと気持ちが沈みこんでいくのを感じて、胡蝶は自分を励ますために、大好きなものに囲まれることにした。


えいっというかけ声とともに、虫籠をひっくり返したのである。



「きゃああっ、姫さま、なんてことを!」



持ち場を離れるわけにもいかず、衝立や几帳の陰から胡蝶の様子を窺っていた侍女たちが、いっせいに悲鳴をあげた。