この年まで歌ったことがなかったのが
いつの間にか苦手という認識に代わっていた。


あたしは音痴なのだろうか?



「わかんない。一度も歌ったことないや」


「ええ!?本当に?
鼻歌とかも?」



少し考えてみる。



「…ないな

ああでも小学校の斉唱は歌ってたかな

それくらい」



目の前の少女はとてつもなく驚いていた。
まあ確かにこんな人はごく稀だろう。

すると、しばらく考える素振りを見せこんなことを言う。



「なら、一度歌ってみましょう!」


「え、無理」


「歌ったことがないのなら一度歌ってみるべきです!
僕も一緒に歌いますから」



女の子なのに一人称が僕なのかと思いながら
確かにそうかもしれないと思った。

歌ったことがないのに苦手というのは食わず嫌いのようなものだ。



「樹さんはどんな歌を聴きますか?」



少女の問いに少し考える。

私がよく聴くのは…



「倉衣麻希とか、安室奈美とか、ビーズとかかな」


「僕もよく聴きます!

じゃあ、戻りましょう!」



紅茶のティーパックを捨てて、2人で部屋に戻った。
というか折角の会話のチャンスをあたしは…


だけど、穂村真尋がどんな子なのかというのは少しわかった気がした。