話し終わると、先生はそれまでしていた難しい顔を、フワッと緩めた。


「私もそんなときがあったわ」

「えっ」

「学生の頃から付き合っていた人を結婚間近で亡くしてね。ガンだったのよ」

「そんな……」

「絶望の淵にいた時、大学の先輩が気晴らしにってドライブに誘ってくれたの。そこでずっと好きだったって言われたわ。もちろんその時断ったわ。私はまだ彼のことが忘れられないって。そしたらね、先輩が言ったの」



そこで1度、先生は言葉を区切った。


「1人の人を愛し続けるのはいいことだ。だけど俺らはまだ若いんだ。だったら今は愛し続けられる人を探す時じゃないのか? って言ってくれたの。私はその言葉にハッとしたわ」


遠くを見つめるように、先生は言葉を紡いだ。


「ああ、そうかもなって、思った。だって中高生の頃の周りの友達の多くは付き合って別れてを繰り返していたんだもん。私はたまたま波長の合う人と出会えたけど、そうじゃない人はいっぱいいたなって。だったらその時試せなかった分、今いろんな人と波長の合う合わないを試す時かもって」

私は思わず目を見開いた。


「ちょっと答え言いすぎちゃったね。あとは自分で考えて選択しなさい。あなたの人生はあなたが選んで創っていくのよ」



先生の言葉に、私は力強く頷いた。




……部活終了のチャイムが鳴っている。


そろそろ誠司が迎えに来る頃かな。


私は椅子から腰を上げた。


そして保健室を出るとき、ふと振り返った。




「先生、それ、その先輩さんからもらいました? 」



すると、先生が驚いたように私に聞き返した。


「 なんで……?」

「だって、その人のこと話すとき、愛しそうに見てたから」




先生は苦笑するとそれ___左手の薬指の指輪を撫でた。




私はそのまま保健室を後にした。