『必ず僕が先輩を甲子園に連れて行きます。』

二年前の夏の地区大会、準決勝で惜しくも敗れた日の帰り道、倉木君は私に約束してくれた。

今日の敗戦によって、悔しそうに歪められたままの顔で。
それでも、その瞳には不思議と力があり、根拠はないけど本当に彼なら甲子園に行けるような気さえした。

当時一年生だったにも関わらず、控えのピッチャーとしてベンチ入りしていた倉木君は速球派のピッチャーで、ストレートの速さは入部前から噂されるほどだった。
それだけではなくて、変化球も丁寧に投げ、制球も悪くない。
中でも、彼のナックルカーブは高速で大きく縦に落ちる、まさに"魔球"だった。

倉木君は、甲子園に行く約束をする代わりに、私にとんでもない"魔球"を投げた。
おかげで、私はレギュラーで四番の同級生の告白を断り、今日まで実に清く健全な学生生活を送る羽目になっている。