ナックルカーブに恋して


「倉木君、起きて!ほら!」

我に返って揺すり起こせば、彼は眠そうに目をこすりながら、「うーん」と大きくベッドの中で背伸びをした。

「おはよ、瑠衣。」

倉木君がにっこりと笑って時間に不似合いな挨拶をする。
彼が私を呼ぶ名前が「先輩」から「瑠衣」に変わっていることに気が付き、一瞬ぽっとなったが、今はそれどころではない。

「時間、大丈夫なの?帰りの新幹線は?」

慌てて尋ねれば、彼は余裕綽々の顔で答えた。

「大丈夫だよ。今日は泊まる予定だから。」
「へ?泊まるって?」
「うん、そのつもりでホテルも取ってあった。さっき、キャンセルしたけど。」

あっけらかんと言う彼の荷物を見れば、なるほど、一泊くらいは出来そうな大きさのスポーツバックだった。
ホッと胸をなで下ろすと同時に、彼が意外な事実を口にした。

「明日は大学の野球部の見学に行くからね。」
「へ?」
「明日来てくれって言われてて。どうせ、東京行くならと思って、取材も受けたんだよね。いい加減、瑠衣にも会いたかったし。」

突然の展開に付いていけず、口をぽかんと開けた私に、彼は説明を始めた。

「僕、大学に進もうと思って。甲子園見てたH大の監督さんから、うちの監督に連絡があって。一度見学に行かせてもらうことになったんだ。」

H大といえば、首都大学リーグに所属していて、プロ野球選手も多数輩出した名門チームだ。