ナックルカーブに恋して


「先輩、そろそろ素直になってください。」

そうはいかない。
目の前の倉木君は、もう昔の彼ではない。今やすっかり有名人で、地元の期待の星。きっと可愛い女の子だってたくさん寄ってくる。
いずれ、彼はもっとスーパースターになるかもしれない。
そんな彼を昔の他愛ない約束で縛ってはいけない。
どうせ傷つくなら、このまま約束ごと無かったことにしてしまいたかった。

「約束は有効です。しかも、そんな顔しておいて、しらばっくれても意味ないですよ。」

どんな顔を自分はしているのだろう。
そう思いながら、私は慌てて目を逸らした。
そんな私を見て、倉木君は「ははっ」と小さな笑いを漏らした。
私はなぜ笑われたのか分からずに、眉間に皺を寄せる。

「先輩、可愛すぎ。抱きしめていいですか?」

彼は私に、たった一言「ダメ」と答える時間さえも与えなかった。
すぐに腕を引かれて、気づけば彼の胸の中にふわりと閉じこめられていた。
抵抗するように身を捩れば、さらにきつく抱きしめられる。

「僕のこと、大好きって顔しながら抵抗する先輩がいけないんです。」

耳元で彼が囁く。

「やっと、つかまえた。」

そして、彼の視線が私の目をまっすぐに捉えた。

「瑠衣先輩を僕のものにしてもいいですか?」

その問いに、
私はノーとは言えなかった。