Bu-KIYOびんぼう ~幼なじみと不器用な約束~

「母さん」

とがめるように、タケルくんが言った。

「ごめんごめん。本当にゆっくりしてって」

お母さんがいなくなると、急にこの世が静かになったように感じた。


「アカネちゃんは?」

「バイト始めたから、帰り遅い」



また静かになった。




「明日から入院する」


タケルくんは何も言わない。


静かで、暑くも、寒くもない。

変な夏。



「私の不器用なところが入院すれば治るって…」

「キヨ」


タケルくんが私の目を見た。

「一人で行くの?」


空気に一筋、線が張った。

真剣な目だった。


「俺が…もっと強かったら」

「そんな…」

「あの時、もっと強かったら…」


言わないといけないことがある気がした。

だけど、それは言葉にならなかった。

いつものように、全身を駆け巡ってふっと消えた。


「行くね」

お医者さんに言われた通り、用心しながら立ち上がった。


「本、持ってって」

「でも…」

「ごめん。それだけ。もう何も言わない」