幸せの定義──君と僕の宝物──

バーを出たリュウは、考えてもどうしようもない事は忘れてしまう方がいい、もう考えないようにしようと自分に言い聞かせながら、自宅へ向かっていつもよりゆっくりと夜道を歩いた。

夏の夜風がリュウの肌を撫でる。

(そういや…アイツと会うのは、いつも夜だったな…。)

まだ美容師をしていたあの頃、彼氏がいるアユミを自分から訪ねて行く事はできず、店に来てくれるのをいつも待っていた。

店が終わる頃に通りかかったアユミと食事に行って、マンションのそばまで送って行った。

ほとんどそれだけだったが、ただ一緒にいられるだけで、その時だけは彼氏ではなく自分の事をその瞳に映してくれているのだと思うだけで幸せだった。

(もう終わったんだろ…忘れようと思ったそばから思い出してんなよ…。アイツはオレの事なんか、一度も見てなかったんだよ…。自分で自分をみじめにしてどうすんだ…。)

叶わなかった恋を忘れる事も、他の誰かとの新しい恋を見つける事もできない。

他の誰かを本気で好きになれたら、叶わなかった昔の恋を忘れられるだろうか?

(って言うか…忘れられねぇから、他の女を好きになれねぇのか?結局、この気持ちが枯れて死んでくのを待ってるしかねぇのかよ…。コイツはいつになったら天寿をまっとうしてくれんだ?)

リュウは、あの頃も今もこの想いはどうする事もできないのだと、痛む胸を押さえながら夜空を見上げた。

(いっそのこと、誰かがバッサリ斬り殺してくれりゃラクになれんのにな…。)