幸せの定義──君と僕の宝物──

事務所の会議室を足早に出たリュウは、バーのカウンター席で一人、ビールを煽っていた。

さっき会議室で聞いたトモの話が、リュウの頭の中で何度も響く。


“いずれ、彼女と一緒になるつもりでいる。”


トモは、マサキと出会った経緯や、アユミが一人でマサキを産んで育てて来た事、自分はその事実を13年も知らずにいた事を話した。

そして、別れた後も二人がお互いに想い合っていて、今もその気持ちは変わらないと言う事。


ユキから話を聞いて、それはおそらくトモの子供だと思っていたはずなのに、実際にトモの口から真実を聞かされた時、リュウの中で糸がプツリと切れたような、何かが音もなく崩れ去ったような、妙な虚無感に襲われた。

もしかしてトモではなく自分の子供かもと思っていたかも知れない。

13年前、リュウが最後にアユミと会った時、アユミが涙を見せたのは、トモと別れた事を話した時だけだった。

リュウが“オレじゃダメか?”と尋ねた時も、“じゃあな”と別れを告げた時も、アユミは泣かなかった。

(あの時も、その後も…アユミの心の中には、トモしかいなかったんだな…。)

アユミがトモとの付き合いに迷い始めた時、アユミのそばにいるのは自分でなくても良かったのかも知れない。

ただ偶然再会した自分が、たまたまアユミの悩みを聞く相手になっただけだ。

(バカだな、オレは…。つまんねぇ勘違いなんかして…一人で思い上がってた…。アユミはオレの事なんか、なんとも思ってなかったのに…。)