「あいつら?」



思わず訊き返すと、リヒトはふいっと顔を背けてしまった。


なんでもない、この話はもう終わりだ、というように。



そんな反応には慣れているので、私は気にせずに、ベッドの端に落ちていたセーターを手にとって着た。



リヒトはほとんど自分の話をしない。


家のことも過去のことも、自分の考えも思いも、まったく話さない。


なぜかは分からない。


でも、初めて出会った大学生のころから、変わらずそうだ。



最初は私もリヒトのことを知りたくて、色々と訊ねてみたりもしたけれど、迷惑そうな顔をされて終わりだった。


だから、今はもう、リヒトが話そうとしないことは聞かないことにしていた。



リヒトの音楽を理解していない『あいつら』。

誰のことだろう?



バンドのメンバーのことかと思ったけれど、たぶん違う。


あの人たちは、ある意味リヒトに心酔していて、リヒトの作る曲に何かを言うことなど考えられない。


Dizzinessはリヒトのワンマンバンドだ。

リヒトが一人で曲を作り、バンドの方針もリヒトが一人で全てを決めている。


普通のバンドだったらそのワンマンぶりで揉めることもあるかもしれないけれど、Dizzinessはそんな心配はないと思う。


彼らは本当に音楽が好きで、古今東西の色々な音楽を聴いていて、だからこそリヒトの才能が本物だと理解していた。