「い、いや、私、歌はそんなに……」
ずいっと詰め寄ってお願いする時雨澤に、タジタジになる。
ていうか、私アニソンとゲームのアイドルが歌ってる曲と声優さんが歌ってるやつしかしか知らないし!
「オレがお前に惚れたの、声だから大丈夫」
「声?」
ひやりと冷たい指先が、私の唇に触れた。
……声を出せなくなった。
時雨澤の青みがかった瞳に、捕えられた私が映る。
「怒った時とか、誰かを応援する時の腹から出す声。そこら辺の中途半端な女の耳障りな奇声みたいな高い声とは違う」
「……」
「もっと聞きたい。聞かせてくれ」
「え、でも私……」
「ほら、マイク。ハウリングするからスピーカーの近くには立つなよ」
やっば拒否権無しか!
時雨澤は私をあっさり解放して、着々と路上ライブの準備を整える。
ギター、マイク、マイクスタンド、スピーカー、『セル/一日限定路上LIVE』と書かれた看板。
歌って演奏する準備が完全に整った。
マイク片手に呆然と立ち尽くす私。
人前に立つのに緊張はしない方だけど、これは失敗した時の客の反応が怖い。

