今朝、鞄の中にこっそり手紙を入れられるくらいならストーカーだってしてるだろうし、学校祭で文芸部誌を買った時に盗撮だって出来たはず。

でも、彼はそれらをやらなかった。

……やられても困るけど。

返事に困ってると、先に紫臣くんが口を開いた。

「返事は、約束の一週間後でよろしくね。……良い返事、期待してる」

彼は手を離した。

「この絵は、君にあげるよ」

キャンバスの小さめな絵を、私に手渡した。

私が受け取ると同時に、上から下校時間を告げるチャイムが鳴った。

「……また、君の、榊さんの物語を見たいんだ」

鍵を外してくれて、自由の身のはずなのに身体が動かない。

美しい漆黒の瞳に吸い込まれそうだ。

「僕は……君が必要なんだ……一人の女性としても……僕が絵を描く為にも……」

ぽつりぽつりと紡ぎだす言葉が、段々小さくなっていく。

白い肌が、この暗い場所でも分かるくらい紅くなってる。

「……そろそろ下校時間だ。校門が閉まる前に帰ろうか」

独り言のように小さく、でもよく響く声で紫臣くんは言った。