「アオ?」


透子が名を呼ぶ。
訝しげに眉を寄せて、小さな唇を動かして…

唇を、動かして…


「‥‥‥大丈夫?」


「ぉああぉえぇぇ!?
だだ大丈夫、大丈夫。
なんだっけ?
あ、タコス!タコス取らなきゃ!」


我に返ったアオが、慌ててバタバタと動き出すが…

ハイ、『タ』しか合致しておりマセン。
てか、タコスでいったいナニすンだ。

またも彼女に見惚れて、脳内トリップしていたようだ。

タコス、タコスとホザきながら奇跡的にタオルに辿り着き、濡れたスウェットを拭うアオの横顔を、透子が隣から覗き込む。


「ねェ、アオ。
この間から、なんかオカシくない?」


「へ?
いやいや?オカシくねーよ?
全然、うん、そー、全然」


まるで逃げるようにそそくさと移動して腰を屈め、味噌汁塗れのフローリングを拭くアオの横顔を、同じく腰を屈めた透子が覗き込む。


「やっぱ、なんかオカシくない?」


「いやいやいやいやぁ?
全然だって、コレホント」


アオが不自然に目を逸らす。
透子が鋭く目を細める。

うん、わかってるよ。

全然なワケないよね?
明らかにオカシィよね?