It's always darkest before the dawn.

こう歌っていたのは、誰だったっけ?

思い出せないケド…

美しい旋律に乗せて『過去を振り捨てて前へ進もう』と訴える、力強い歌だった。

今にも雨を落としそうな雲はもう消えた。

けれど都会の夜空に星はなく、冥界に続くかのような闇がただ広がっている。

でもね?
少しも暗くないよ?

君がいるから。

白いワンピースと濡れたままの黒髪。

淡い光に包まれた、あの日のままの君がいるから。


「しーちゃん…」


階段の先にある重いドアを開けたアオは、屋上の柵に手を乗せて雑然とした街を見下ろす天使の背中に呼びかけた。

けれど、彼女は振り向かない。

聞こえなかったカナ?

ボリュームを上げて、ハイ、もう一回。


「しーちゃん?」


けれど、彼女は振り向かない。

ご機嫌ナナメなの?

ねェ…
その姿で冷たくしないでよ。

俺の手を握ってくれたでしょう?
俺に笑顔を見せてくれたでしょう?

鈴を転がすような声で、俺を『アオ』って呼んでくれたでしょう?

ねェ…


「…
シズク…」