「しーちゃんはほんとにロマンがないなァ…
ソレってやっぱ、複雑な出生のせいなの?」
イケメンらしからぬ情けない顔で顎を撫でながら、アオはナニゲない調子で言った。
すると、透子を取り巻く空気が、微妙な変化を遂げる。
なんというか…ピリリと刺すように。
けれど…
「そこまでご存じでしたか。
ではやはり、父絡みの誘拐なンですね」
表情と口調はさっきと変わらず冷静なまま、透子もナニゲない調子で言った。
アオの調査によると、芦原透子は、どう解釈しても平凡な女子高生とは言えない経歴の持ち主だった。
小学生の頃、家族旅行で行ったトルコで交通事故に遭遇。
彼女だけは奇跡的に助かったが、両親は死亡。
その後、地方の有力者である母方の祖父母に引き取られ、現在は教養を身につけるために上京し、セキュリティの確かな高級マンションで一人暮らしをしながら名門女子校に通っている。
と、彼女の周囲は認識していたし、学校に提出された書類にも不備はなかったが…
ハイ。
トルコの事故を除いて、後はまるっと虚偽。
透子は、コンパニオンだった芦原清子(アシハラ キヨコ)が生んだ私生児だ。
父親はなんと、現・日銀総裁である黒木昭彦(クロキ アキヒコ)。
透子の誕生と前後して一切の交流はなくなり、認知すらされなかったが、定期的な金銭援助はあったようだ。
おそらく、口止め料でもあったのだろう。
そしてトルコで清子は事故死。
黒木は口止め料の支払い先を生き残った実の娘である透子に変え、万が一彼女の存在が世に発覚した時のために、名門校に通って節度ある暮らしをすることを要求した。
もちろん代理人を通して。
透子とは一度も会うことなく。



