「根拠?って?」
「あなたは私が友人と交わす挨拶をご存じでした。
つまり、私が通う学校をご存じでした。
そしておそらく、今日が夏期休暇の前日で、いつもより下校時刻が早いこともご存じだったのでしょう。
だから今日、あなたは私の帰宅を狙って拉致を決行した。
真夏の炎天下、私の自宅付近の住人が空調の効いた屋内で息を潜めていて、お勤めの方がまばらに帰ってくる夜間よりも人通りが少ないことすらご存じで。
しかもあの場所は、ちょうど個人宅の防犯カメラとマンションの防犯カメラとの死角でした。
要するにこの拉致は、あらかじめ私及び私の周囲を綿密に調査して行われた、計画的なモノ。
あなたが言う、『私を守る』ための突発的な安全措置であるはずがありません。
その上、意識を奪うために用いられたのはスタンガンや鉄パイプではなく、静脈麻酔薬。
ストーキングの挙げ句の、激情型の犯行とも思えません」
「わー… しーちゃん、探偵みたい…」
長い、そして理路整然としすぎている『根拠』に、アオは舌を巻いた。
彼女は予想外に侮れない。
横を向いてアオを真っ直ぐに見つめた透子が、当事者とは思えないほど冷静且つ客観的に、再び口を開く。
「私は、こんなにも用意周到に拉致されるような要人ではありません。
中身も外見も、特別な要素なんて何一つ見当たらない、平凡な女子高生です。
なのに、私はいったい何に巻き込まれたのでしょう?
人違いではありませんか?」
「ハハっ 人違いだって?」
感嘆に目を丸くして透子の言葉を聞いていたアオだったが、最後のフレーズには眉をハの字にして吹き出した。
「君だよ、しーちゃん。
俺は君を捜して、君を見つけて、君を拐った。
俺にとって君は、誰よりも『特別』なんだよ」



