その嘘に踊れ


警戒する素振りもなく、天使はトコトコと俺の傍に寄ってくる。

そして目の前に立ち、俺の胸よりちょっと下の辺りから、澄んだ瞳でジっと見上げてくる。

あぁ…
吸い込まれてしまいそう。

ついでに、全てを忘れてしまいそう。

俺がナニで、ナニをするためにココに存在しているのか。

だから…

俺を見上げる天使が愛らしく小首を傾げ、


「一緒に遊ぶ?」


なんて言った時、思わず頷いてしまったンだ。

けれど、すぐに後悔したよ。


「お兄ちゃん、お名前は?」


と、天使に訊ねられたから。

俺には、番号はあっても名前はない。

天使に告げるべき名前を持たない俺は、彼女を見つめたまま唇を噛みしめた。

すると天使は、ナゼかしたり顔でコクコクと頷く。


「だよね?
私もそうなの」


え?ナニ?
ナニが『そうなの』?

ひょっとして、天使も名ナシ…


「知らない人にお名前教えちゃいけませんって、お母さんに言われてるんでショ?」


あー… そーゆー…


「でも、それじゃ遊べないから。
お兄ちゃんは『アオ』ね」