その嘘に踊れ


生き残るために、数種類の主要言語は辛うじて覚えた。

だからわかる。

天使が話した言葉は、日本語だ。

けれど手で口元を押さえた天使は、慌てたように言い直す。


「コノ上、ノー、ノー!
天井、ノー!
雨、降ッテルヨ!」


だーから、わかってるって。

てか、『No』しか言えてねーって。
てかてか、ココの公用語は英語じゃねーって。

それでイイのか?このカタコト天使。
天使だから許されるのか?


「…
雨宿り、してるの?」


コレであってる?

俺はまだあまり流暢に喋れない日本語で、天使に話しかけた。

大きく目を見開いてから、天使はニコリと笑う。


「うん、お母さんとはぐれちゃってね?
捜そうと思ったら、雨が降ってきてね?
雨宿りしようとココに入ったら、楽しそうだったからね?
探検してたの」


『うん』と言いつつ、雨宿りなのか探検なのか。

濡れちゃってンだから、結果としては後者なンだろな。

天使はやけに冷静で、腹が据わっていた。

言葉も通じない異国で迷子になってるクセに、オバケでも出そうな廃墟で探検ゴッコしちゃうか?フツー。

よっぽど旅慣れたツーリスト?
それとも、この国に進出した日本企業の、従業員の身内なのだろうか?