その嘘に踊れ


「誰?同僚?」


デイジーに呆れておきながら、自分だって息も乱していないいつもの口調でアオは訊ねた。


「ンなワケないでショ!
同僚なんかに言ったって、アタシが生きて出勤できるかどうか、面白おかしく賭けのネタにされるだけよっ!
他人の不幸は蜜の味ってヤツらばっかりなンだから!」


酷ェ職場だな、おい。


「じゃ、誰?」


「オタくんしかいないわっ!
この前、無理矢理にでも連絡先を交換しといてよかったわっ!」


あぁ、そう。
オタくん、ご愁傷サマ。

だが…

アオは手を口元に当てて眉を寄せ、スマホを操作するデイジーの指先をジっと見つめた。

これもまた、本当に偶然なのか?

偶然知り合ったご近所サンに、今、この状況下で偶然助けを求めるのは、本当に奇跡的な偶然の連鎖なのか?

もし偶然ではなかったら?

彼はオタくん。
階下の住人。

本名は李 静。
オタク文化にハマってしまった留学生。

それが、掴まされたガセネタだったら?

今、呼び出そうとしているあの男こそ、花火大会の日の画像をクライアントにリークした、謎の『何者か』…


「もしもし?オタくん?
アタシよ!デイジーよ!」


疑惑の男が電話に出たらしい。