もし偶然ではなかったら?
彼はデイジー。
隣の住人。
本名はカルロス ミラー。
ゲイバーで働くオネェ。
それが、掴まされたガセネタだったら?
同じ境遇にある仲間たちの顔は、だいたい把握できている。
だが、アイツらの全員を知っているワケではない。
つまりこの男は、アイツらが密かに差し向けた刺客…
いや、それはない。
だって時期が合わない。
この男と初めて接触したのは、アイツらが透子の生存を知る以前なのだから。
だとすると、残る可能性は…
(花火大会の日の画像をクライアントにリークした、謎の『何者か』…)
レイバンの奥のアイスブルーを凍てつかせ、アオはデイジーを見据えた。
どんな状況変化にも対応できるよう、全身の力を抜いて。
神経だけは、指の先まで張りつめて。
「…
喋ってくれないのはいつものコトだケド…
やっぱり今日は雰囲気違うわよ?
どうしたの?」
大通りに背を向けて正面に回り込んだデイジーが、訝しげにアオの顔を窺い見た。
その逞しい肩の向こうに、陽射しを反射してキラリと瞬いた光…
「あー!わかったぁ!
アンタ、透子ちゃんにフラレちゃったのね!
呑みましょ!今日はトコトン呑みま きゃっ!?」
話の途中でアオに思いきり腕を引かれて横によろめいたデイジーは、オネェらしい可愛い悲鳴を上げた。